「炎症→鉄欠乏でもフェリチン上昇」のしくみ

前回、鉄は
フェリチン→血清鉄→ヘモグロビン
の順番で下がっていくので、
「フェリチンは鉄欠乏の鋭敏な指標」
「フェリチンは軽度の貧血もわかる」
と書きました。

そんなフェリチン、ある弱点があります。

それは
「炎症があると、鉄欠乏でも数値が上がってしまう」

です。

分子栄養学を勉強していると
「フェリチンは炎症で上がる」
という一文に突き当たることがよくあります。

「ふーん」で終わってもいいんですが、
わかるともっとおもしろい。

なぜ炎症で
「フェリチン=鉄を貯蔵するカゴ」の数値が
上がってしまうのか。
説明にチャレンジします。
2段階に分けて説明します。

1.IL-6(インターロイキン6)とヘプシジン

風邪や怪我のような細菌感染、
あと、胃炎や鼻炎などの慢性炎症があるとき、
白血球がIL-6(インターロイキン6)という物質を出します。

IL-6は、
「細胞から分泌されるたんぱく質」=「生理活性物質」の一種です。
生理活性物質の別の名はサイトカイン。
コロナ禍で
「サイトカインストームで重症化」と
よく聞くようになりました。

炎症があって、白血球がIL-6を分泌します。
IL-6は血流にのって、肝臓に行きます。
肝臓はIL-6の刺激で
「ヘプシジン」
というたんぱく質を合成します。
ヘプシジンは
細胞内の鉄を外に出さない、閉じ込める
という役割があります。

細胞1つを1軒の家だとすると、
鉄が家の外に出れなくて、
家の中に鉄が溜まっちゃってる感じでしょうか。
ヘプシジンが、鉄の体内循環を止めます。

からだに炎症が起こると、
白血球がIL-6を作り、
IL-6をキャッチした肝臓がヘプシジンを作る。
ヘプシジンは細胞の中に鉄を溜める。

まずこれが第一段階。

2フェリチン合成を制御するたんぱく質「IRP」

細胞の中に、IRPというたんぱく質があります。
(Iron Regulatory Protein=鉄応答配列結合タンパク質)

IRPは「鉄に関するたんぱく質」の合成量を
コントロールするためのたんぱく質です。
「鉄に関するたんぱく質」とは
フェリチンの他にトランスフェリン、
赤血球でのヘム合成酵素(ALAS2)などです。

このIRPのコントロールが非常~に巧妙にできてるんです。

IRPは
〇フェリチンの合成を抑制
〇トランスフェリンやALAS2の合成を促進
します。

それから、IRPの重要な特徴に
〇鉄と結合すると、力を失う(不活性化)

というものがあります。

まず、「炎症がなくて、鉄欠乏の時」
を想像してみましょう。
こっちの方がイメージしやすいので。

炎症がないので、全身の鉄代謝は回っています。
鉄欠乏なので、そもそも細胞内の鉄は少ないです。
つまり、細胞内にIRPに結合する鉄がありません。

IRPはmRNAに働きかけて、
フェリチン合成を抑制します。
トランスフェリン、ALAS2はたくさん作る。

細胞内の鉄が少ないと、
鉄の貯蔵(フェリチン)を減らして、
トランスフェリンで鉄を全身に輸送して、
ALAS2を使って骨髄で赤血球をじゃんじゃん作る。

次に、
炎症があって、細胞内の鉄が多い時。

IRPは鉄と結合して、
仕事ができなくなります(不活性化)。

たぶんここが一番ややこしいんですが、
「IRPはフェリチンの合成を抑制する」
そんなIRPに鉄がくっつくと、仕事をやめちゃう。

だから、
「フェリチン合成の抑制をやめる
=フェリチンが増える」

反対にトランスフェリン、ALAS2は作られません。
血清鉄、ヘモグロビンは下がっていきます。

細胞内の鉄が多い時、
鉄と結合したIRPは不活性化される。
フェリチンはたくさん合成される。
トランスフェリン、ALAS2の合成は止まる。

前回も出てきた下の絵、
フェリチンは細胞の中、
血清鉄とヘモグロビンは細胞の外です。

今回のブログ、がんばったつもりですが
そうとうわかりにくかったと思います。

私も論文を一度読んだだけじゃわからず、
何度か読んでようやく把握しました。

そして、
「生物って、よくできてるなあ。。。」
と感動しました。

参考文献はこの2論文です。

鉄と炎症

鉄代謝―最近の知見―

興味ある方はチャレンジをぜひ。